トリコモナス

腟トリコモナス原虫(Trichomonas vaginalis)という肉眼では見えないとても小さなアメーバに似た単細胞の微生物による性感染症です。性器に感染して、性器のかゆみ、排尿時の違和感や痛みなどを起こします。
腟トリコモナス原虫という名前や、女性に症状が現れやすいことから男性には感染しないと誤解されることがありますが、男性も感染し、適切な治療をしなければ完治せず、感染を広げてしまいます。
日本では比較的感染者数が少ないのですが、世界的には最も感染者数の多い性感染症で、世界全体では1億5,600万人もの感染者がいるとWHOが報告しています。
クラミジアや淋病などと異なり、若い世代に加えて中高年の発症も多い傾向があります。

性感染症の感染経路(男性)
性感染症の感染経路(女性)

トリコモナス症の原因

主に性行為や性的な接触によって感染しますが、まれに便器や浴槽を介した感染や、タオルなどの共有による感染が生じることがあります。
1回の性行為で感染する可能性が高く、コンドームを正しく装着していても感染することがあります。また、便器や浴槽、タオルなどを介した接触感染がまれに生じるのは、トリコモナスが一定の温度と湿度があると生き延びられるためです。

トリコモナスの症状

男性の症状

  • 排尿時の違和感・痛み
  • 尿道から膿のように粘度の高い分泌物が出る
  • 性器のかゆみや違和感
  • 無症状

男性のトリコモナス感染は尿道に生じますが、ほとんどの場合は無症状です。症状がなくてもトリコモナスは持続的に存在しますので、無症状で放置していると感染を広げてしまいます。まれに排尿でトリコモナスが洗い流されることもありますが、放置されたトリコモナスが感染範囲を広げて、尿道炎や前立腺炎を起こすことがあります。大事な方を守るためにも、「もしかしたら」と感じたら早めにご相談ください。

女性にみられる症状

  • 性器や腟のかゆみ
  • 性器の赤み
  • 泡状で悪臭のあるおりもの
  • 排尿痛
  • 性交痛
  • 無症状

女性は男性に比べるとはっきりとした症状を起こしやすい傾向があり、泡状のおりもの、悪臭、性交痛など特徴的な症状を起こします。感染しても20~50%は無症状ですが、進行すると症状が現れるケースが多く、発症の時期に個人差があります。
放置してしまうと、子宮内膜炎や卵管炎などを引き起こすことがあり、流産や不妊につながる可能性がありますので、早期に適切な治療を受け、しっかり治す必要があります。

トリコモナスの潜伏期間

潜伏期間と検査可能時期

トリコモナスの潜伏期間は10日程度とされていますが、無症状のことが多く、症状が現れる時期に個人差が大きいことから、感染して半年以上経過してから症状が現れるケースもあります。心当たりの有無に関わらず、性器の違和感などがあった場合には、できるだけ早く受診しましょう。

妊娠中のトリコモナス感染について

トリコモナスは母子感染を起こします。さらに、トリコモナスに感染していると流産や早産、陣痛前に破水してしまう前期破水を起こすリスクもあります。加えて、妊娠中は外界の病原体から腟を守る自浄作用が低下しますので、感染しやすい状態であり、妊娠中の感染にも十分に注意する必要があります。妊娠前のブライダルチェックをパートナーと一緒に受けることは、母子感染、流産や早産などのリスク低減に大きく役立ちます。

トリコモナスの検査

感染機会から2〜3日経過していれば症状がなくても検査をすることができます。

男性の検査

  • 尿検査

女性の検査

  • 腟ぬぐい液、尿検査

トリコモナスは男女両方が感染していることの多い性感染症ですが、男性には症状が現れないことが多く、女性だけ治療を受けて治っても再感染を繰り返してしまうことがよくあります。同時に検査と治療を受け、症状が改善しても陰性が確認されるまでは性行為や性的な接触を避ける必要があります。

トリコモナスの治療

内服薬か、腟に挿入する腟錠による治療を行います。当院では、基本的にフラジール内服錠を処方しています。フラジール内服錠はドラッグストアなどでは市販されておらず、医師の処方が必要な薬です。

フラジール

原虫感染に高い効果が期待できる抗原虫薬です。症状に合わせた内服が必要ですが、一般的には1日2錠を10日間内服します。
服用期間は禁酒してください。飲酒すると腹痛や吐き気などを起こす可能性があり、薬の効果を十分得られなくなる可能性があります。
なお、妊娠中や授乳中の服用が困難な場合もありますので、事前にお申し出ください。

トリコモナスは市販薬では治りません

看護師トリコモナスによるかゆみやヒリヒリする痛みはデリケートゾーン用の市販薬でも改善できますが、トリコモナスの根本的な治療はできません。市販薬で症状をごまかしていると皮膚トラブルを起こすことがあり、トリコモナスが重症化してしまう可能性もあります。トリコモナスをしっかり治すためには医療機関を受診して適切な治療を受ける必要があります。
泡状の悪臭があるおりものなど特徴的な症状がない場合でも、性器のかゆみや赤みなどの症状がある場合には、早めにご相談ください。

トリコモナスは自然治癒しません

トリコモナスは自然治癒することはなく、治すためには医療機関を受診して適切な治療を受ける必要があります。無症状でも男性は前立腺炎、女性は子宮内膜炎や卵管炎、流産や早産などにつながる可能性があります。パートナーと共に、しっかり治しましょう。

トリコモナスの予防

完全には防げませんが、セックスや性的な接触の際に最初から正しくコンドームを装着することでリスクを低減できます。生理中はトリコモナスの感染や繁殖を生じやすい傾向があります。
また、まれに浴槽や便器、タオルなどを介した感染が生じることがありますので、疲労や病み上がりなどで免疫力が下がっている時期や、妊娠中にはリスクの高くなる行動を控えるようにしましょう。

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